マルウェアとドローンの関係

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2015年に世間を騒がせた「官邸ドローン事件」から約1年。当初はテロや事故の可能性に注目が集まっていたが、速やかに法的規制が行われる一方、千葉市の特区における商業的利用がすでに実験段階に入ろうとしている。今あらためてドローンの置かれた現状をマルウェアとの関係から分析する。

マルウェアとドローンの関係

私たちが暮らしている現実空間とは少し離れたところで、何か妙なものが動いている、だから不安だ……それがドローンやマルウェアに対する私たちの正直な感想ではないだろうか。特にスパイウェアが外部から遠隔操作でこっそりと情報を盗み出す手口を考えてみると、余計にそういった印象を強くする。

だが大きく異なるのは、マルウェアがもともと規制のないサイバー空間で自由気ままに活動を開始し、すでに四半世紀を超えている点だ。その結果、今や高度なプログラムと巧妙な手法を兼ね備え、効果的な金銭獲得に成功するにとどまらず、政治的、軍事的、産業的な破壊行為が実行できる段階にまで至っている。それと比べるとドローンはまだ黎明期であり、大半の利用者は興味本位で楽しんでいるにすぎなかった。

しかし、2015年4月に官邸ドローン事件が発生して以来、国内ではテロ行為に悪用される懸念が急激に高まり、ドローンに対する法規制を強める動きが活発化した。その結果、2015年9月には早くも航空法の改正法が成立し、12月に施行されるに至った。これまで全く制限のなかったドローンに対して、以下のようなことが禁止された。

禁止事項

  • 人口が集中する地区の上空
  • 空港周辺の上空
  • 夜間の飛行
  • 高度150メートル以上の飛行

もちろんこうした禁止区域であっても、経験が豊富な操縦者が飛行許可申請を行い申請が通れば、ドローンの飛行や撮影は可能である。とはいえ、それでも以下のような制限事項があり、実際の使用については、かなり範囲が狭められたことは間違いない。

制限事項

  • 目視できない飛行
  • 人や建物からの距離(30メートル以上)
  • 物の投下
  • 爆発物の輸送

当面は、誰かに目撃されると、それだけで通報されるという事態が起こることも予想される。つまりマルウェアはプログラムでありその実態はつかみにくいが、ドローンは飛行中や落下したときなどはその正体がはっきりしているという違いがあることが分かる。そのため、ドローンを利用して野外におけるイベントなどを空撮しようというのも、各自治体の条例や各施設においてそれぞれが「禁止」や「自粛」の方向性を打ち出している。

神奈川県横浜市にある寺院では無許可の飛行や撮影を禁止している

神奈川県横浜市にある寺院では無許可の飛行や撮影を禁止している

長野県松本市の文化財施設の入り口には「自粛」の文字が

長野県松本市の文化財施設の入り口には「自粛」の文字が

官邸ドローン事件においてドローンを飛ばした男性に対しては、2016年2月に威力業務妨害罪で懲役2年の有罪判決が下された。さらに、テロ対策として、重要施設の上空の飛行を禁じる法整備も進められている。2016年3月中に成立する見通しの規制法案では、首相官邸や皇居、外国要人がいる施設や周辺などでの飛行が禁じられる。原発施設も対象となる見通しだ。もしも目撃された場合、警察当局には破壊などが認められる。

これだけ厳しい環境がつくられた中で、はたして今後のドローンの商業的利用はどうなるのであろうか。実は、2015年12月、ビジネス創出を目的とした政府による規制緩和地域「国家戦略特区」に指定されている千葉市が、ドローンを使った宅配サービス実験を開始すると発表している。この場合、「特区」であることから法的規制が外され、人口密集地域であってもドローンが飛ばせる。

すなわち、この特区における実験次第では、法規制を変えて今後ドローンの商業的利用にも門戸が開かれる可能性があるということである。混沌としたサイバー空間においては、マルウェアによる脅威など確かに不安要因が多いが、同時にさまざまなメリットがあるし、私たちはこの空間を現実空間と同じように大切なものとして日々利用している。それと同じように、上空空間におけるドローンの挙動についても、今後、法規制と商業的利用のバランスをうまくとっていく方向に進んでいってほしいものである。

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